6 円陣を組む犬たち

次の朝、ゲート場で犬たちと話したことをばあちゃんに話して聞かせた。

ばあちゃんはぼくがどこか具合が悪いんだろうと心配するばかりで、ちっとも話を聞いてくれなかった。

ばあちゃんは、ぼくの持ってるわんダフルっていう機械の便利さを知らない。

まずそれがわからなきゃ話にならない。

わんダフルについて何度か説明しようとしたけど、ばあちゃんは生返事をくりかえすばかりだった。

「ばあちゃん、よく見ておくれよ。 これはおもちゃなんかじゃないってば」

「だれもおもちゃだなんていってねえよ。なかなか重みのありそうな立派な機械じゃねえか。だけどどう考えたってな、ヒデ坊。犬としゃべれるなんてことがあるわけねえだろ」

「それがしゃべれるんだってば」

「あんたはウインナが心配で、頭がどうにかなっちまったんじゃねえのか」

「ウィンキーだよ、ばあちゃん」

「だいじょうぶだ。 かならず見つかるよ。 今から畑に行くけど、いっしょに来るかい?」

「ごめんよ。 今日はちょっと行くところがあるんだ、ばあちゃん」

その日の正午、僕は山の中にいた。

ひっそりとした山奥にある研究所は、丸い屋根に巨大なアンテナがそびえていて、その様子は、まるでコンクリートでできた白いカブトムシようだった。

ぼくは研究所の門にこっそりと近づいた。

門の前に警備員が二名いた。門をぬけようとすると、警備員の一人がやってきて、ぼくをよびとめた。

「もしもし、ぼく。 悪いんだけど、ちょっといいかい?」

「何ですか?」

「ここに何か用事があるのかい?」

ぼくは三秒ほど考えて、言った。

「社会科の見学に来たんですけど、そのこと聞いてないですか?」

「ほお、学校の勉強かい。 立派だね」

ぼくはそれらしくうなずいた。それ以上何も聞かれなかった。

第一関門突破だ。

受付にいって、社会科の見学ですと言うと、受付の女の人はぼくをジローっとながめ、誰かに電話して、またぼくをジローっと見た。そして、

「今、係の者がおりませんので」

と、冷たくことわられた。

「いつなら、係の人がいるんですか?」

ぼくがしつこくたずねると、明日また来てみてくださいと言われた。

けっきょく、この日は中へ入れてもらえなかった。

これが本当に学校の社会科の見学だったら、すぐにあきらめもつくけど、ぼくはウィンキーを助けにきたんだ。

簡単にあきらめるもんか。

明日、必ず来てやる。

ぼくは帰り道、森の中の白いカブトムシの建物をじっとにらんでつぶやいた。

待ってろよ、ウィンキー。 必ず助けに行くからな。

研究所から、ばあちゃんちに帰ってきたのは昼ごはん前で、おばあちゃんは畑から帰ってきて、ごはんの用意をていた。

いっしょに昼ごはんを食べたが、ばあちゃんは食事の間中、うかない顔をしていた。


「どうしたんだい?ばあちゃん」

「ああ、畑から帰るついでにゲート場によってみたんだが、へんなことがあってなあ」

「へんなことって」

「相変わらず犬だらけじゃったけどなぁ。ヒデ坊。いつもと少し様子がちがうんじゃ」

「どうちがうの?」

「一匹の細長い犬を囲んで、犬たちが円陣を組んでいたんじゃ、まるで高校野球の選手のようじゃったぞ」

「それ、いつ?」

「ついさっきじゃよ。畑から帰る途中じゃった。ゲート場の犬たちがごはんをどうしとるのが気になって行ってみたんじゃ。そしたら…」

ぼくはばあちゃんの話が終わるのも持たず、わんダフルをふんづかむと、外へ出た。

ゲート場ではばあちゃんの言ったとおり、犬たちは円陣を囲んでいた。

僕は、バラック小屋の物陰に隠れ、わんダフルを耳に押し当てた。

円陣の中心にいる細長い犬は、アフガンハウンドだった。

「いいかい。おじけづいている場合じゃないぞ。もう食物もあんまりないんだ。あの男の人たちもいなくなった。オレたちは自分で戦わなきゃ、仲間を救うことができない。 おれたちを縛りつける。超音波の発信機を破壊し、さらわれた仲間たちを救いだすんだ」

「でもよぉ」ゴールデンレトリーバーが言った。「いったいどうやって、あの建物にしのびこむんだ。こんな大勢の犬が押しかけてみろ。仲間を捜し当てる前に、保健所や機動隊につかまっちまう」

「大勢でなくて、二、三匹で行けばいい」

どの犬かが言い、どの犬かが答えた。

「同じことだ。要するに、犬の姿を見かけた人間は、迷惑がるだろうよ。野良犬なんて存在しちゃいけないらしいからな」

ぼくは物影から出て、犬たちに言った。

「もし、僕でよければ力になるよ。僕だってあの中に助けなきゃならない飼い犬がいるんだ」

犬たちは一瞬しんとして、ぼくを見つめた。

しばらくして、犬たちはざわめいた。

犬たちはゆっくりと僕を取り囲み、ぼくと犬たちはお互い見つめあった。

どうやら僕は彼らの仲間に入れてもらえたようだ。

それからぼくは、わんダフルを使って、しばらく犬たちと会話した。ドッグフードを二袋開封して、その日は犬たちと別れた。

つづく

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